あのとき それから
私の実家のある山奥の寒村で、長らく活躍していたいすゞファスターの消防車。(ポンプ積載車)
クルマ自体は以前にも紹介したことがあるので、ご記憶の方もいらっしゃることと思う。(以前の紹介記事その1 その2)
1980年(昭和55年)式で(ちょっと記憶あやしい)、20年以上に渡って現役だったクルマであるが、幸いと言っていいのかどうか、大きな火事場に出動することもなく、快調・・とは必ずしも言えなかったものの、長らく我が村の守護神として活躍してくれた。

2000年頃だったろうか、阪神間某所で廃車になった消防車を貰い受けてきた為、入れ替わりで廃車となり、その後はしばらく村内で留置されたままとなっていた。
今回は、御役御免となり留置されていた時期と、現役だった当時の写真を交えて、その姿を紹介したい。

それぞれ現役時と、引退後のバックスタイル。
後継消防車はロハで譲りうけてきたものの、装備品は別扱いであったらしく、エンジンポンプ、ホース類などは全て取り外して乗せかえられている。
その為引退後の姿は真っ裸でいかにも侘しい。
走行距離は5千キロくらいだったかな、完全車庫入れだったのでサビは全くなく、ボディは良好。
「プープープー」と鳴る、オールドタイプのバックブザーが付いていたが、台風の警備の際に水がかかったらしく、以後は気まぐれに鳴ったり鳴らなかったり。音楽を奏でるがのごとく、微妙なタイミングで鳴って皆がズッコケたりしたこともあり、気合の入らないことこの上ない。

大きな故障こそなかったものの、バッテリーが上がってしまうことが度々あり、キルスイッチをつけても解決しないとかで、最後は常時充電器をつなぎっぱなしにしてしのいでいた。
他村との合同訓練の際、いざ出動時というときにエンストしてから再始動ができず、やむなく消防車なしの、ポンプのみで参加で赤っ恥という事件があった。
このときは、乗用車とジャンプコードをつないでもうんとも言わず、10人以上で必死に押しがけしようとしてもかからず、最後には大きなトラクターを持ってきて、やっとかけたそうである。

現役当時、車体後部に載っていたエンジンポンプ。
シバウラ製で、車体から取り外して運べる可搬式のポンプ。
運搬の際は、神輿のように4方向に突き出るハンドルを持つのだが、このポンプは相当に重く、4人がかりでも相当にツライ・・。
しかもこういうものは、力が弱いもののところに(=あまり持ち上げられない者のところ)より重さが加わるようになってるので、本当にツライ。
恨むならニュートンを恨めってか。
スターターモーターが付いてはいるものの、バッテリーがいつも上がっているので、単体では無用の長物。
リコイルスターター(紐を引っ張るスターター)での始動がまた相当に困難な代物で、非力な私では引っ張るのさえやっとという感じ。
仕方がないので、消防車側の給電ソケットを接続した状態で始動してから、やおらポンプを取り外して運び出すというようなことをやっていた。

本来は消防車側にも水管が装備されていて、ポンプは積んだままで運用できるようになっているのだが、接続部分でエア噛みを起こすことがよくあったことと、山火事の対応の際にポンプ単体で運ぶ必要があったことから、私の村では接続金具を外したままの状態で使っていた。
つうか金具はみんな捨てちゃった。

ご存知の通り、ファスターはセダンのフローリアンの内外装を流用した為、あちこちにフローリアンの雰囲気を感じ取ることができる。
登場初期のフロントマスクは、セダンと同じデザインの4灯式タイプで、トラックモデルにしてはゴージャスな印象さえあったが、マイナーチェンジ後のモデルは、2灯化され、デザインも単純化された専用グリルとなった。
フローリアンが末期のマイナーチェンジで、更に豪華にゴージャスでデラックスなゴテゴテグリルとなったのと対照的。
フローリアンでは最後まで残っていた三角窓も、ファスターでは何故か途中から廃止となっている。
これらはローコスト化が目的であったのだろうが、ダットサンやハイラックスに追いすがることが出来なかったことも有っての対応なんだろうな。
三角窓廃止については、輸出仕様との兼ね合いがあったのかもね。(完全に推測ですが)
この時期のこのクラスは、トヨタ、日産のほかに、マツダプロシードや三菱フォルテなどもあって、なかなかに競争が激しかった時期。
それがいまではこのクラスの新車モデルはゼロ!ちょっと寂しいね。

で、写真はグリルに輝く、なんともりゅーれいなDieselエンブレムと、サイドの4WDエンブレム。
4WDモデルにはロデオというサブネームが付く。
この当時のファスターはレジャーユースを目的としたモデルを設定しており、荷台に取り付けるFRP製キャビンなども設定していた。
今で言うRVモデルに当たるモデルだと思うが、当時こういった販売戦略は先駆的なケースだったようで、当時の雑誌でもかなり大きく取り上げられている。
これも北米での販売経験から得た発想だったのかな。

楕円を二つ並べた特徴的なダッシュボードデザイン。
これもご存知の通り、フローリアンの部品を流用したものであるが、本家の方は際末期になってからデザインを大きく変更して、当時の最新型風のダッシュボードになっている。
後継モデルの開発が進まず、旧態化したフローリアンを売り続けなければならないという事情に対する、苦肉のてこ入れではあったが、ファスターまでは手が回らなかったらしく、その後も楕円デザインのままで販売が継続されている。

あんまりキレイじゃないけど、ファスターの車内写真。
原設計が古いクルマなので、ハザードランプ(非常点滅灯)のスイッチが、いかにも後付という感じの使いにくいところにあった記憶がある。
いつもスイッチを探し回っていたような・・。
右は汚い灰皿の写真であるが、灰皿の中にシガーライターが同居している。
可動式で、取り外しも出来る灰皿に、どうやって電源を供給していたのかは、今となっては記憶にない。
サイドブレーキレバーはステッキタイプ、当時(平成一桁時代)でも、初めて見たという若い人がよくいたものである。
私はポーターキャブで経験があったので、その度に得意顔で使い方の説明をしていたものである。本当にショーモナイ男だね。

古いネガから穿り返してきた一枚。
これは趣味ではなく、村の会計をしていた父から頼まれて撮った一枚であったように思う。
なんかの申請に使うとか言ってたかな。

さてこのファスター、廃車になったのは10年近く前のことで、現存しません。
大分後年になってから、「ファスターを探しています」というような記事をネットで見かけたのだが、「前あったんだけど、もうないよ惜しいネー」なんて連絡入れても、なんの腹の足しにもならないもんね・・。

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