忘れ去られた高級車
 いすゞベレル


いすゞベレル

ノックダウン生産されていたヒルマンの後継車として、昭和37年4月登場。
ヒルマンでつちかった技術をもとに、いすゞが自社設計したベレルは、モノコックボディに1500ccと2000ccエンジンを搭載した中型車。
ジャイアンツの長嶋茂雄選手をイメージキャラクターとして起用。クラウン、セドリック、グロリアといったライバルに挑むこととなる。

しかし当初よりボディワークの悪さから来る振動や騒音の大きさが指摘され、雨漏りがするといったマイナートラブルも頻発、評判を落としてしまう。
これはいすゞが初めて手がけた乗用車故に、設計に未熟な点や、製造現場の技量不足が有った為としている文献が多い。(ヒルマンのボディは外製で有った)

また発売からまもなく、すでにネームを確立しつつあったライバルが一斉にモデルチェンジを決行というマイナスも有り、販売は低迷を続ける事となる。

営業ユースを狙った、2000ccディーゼルエンジン搭載モデルを設定したことも話題で有ったが、ディーゼルエンジン自体の騒音と盛大な振動が敬遠され、これまた不評であった。
度々マイナーチェンジを繰り返し、エキスプレスを名乗る商用バンを追加、昭和40年10月にはデザインを大幅に変更するなどしてテコ入れを図ったが、ライバルに一矢報いる事も叶わず、昭和42年には生産を終了した。

ベレルというネーミングは、社名いすゞの語源で有る「五十鈴」の鈴(Bell)と五十(ローマ数字でL、すなわちel)を掛け合わせたもの。ちなみにベレットはベレルの妹分という意味で、仏語の女性詞である「ETT」を組み合わせた物だとか。

ベレルのカタログは随分以前になるが古本屋で入手したもの。
それ程程度は良くなかったにも関わらず、値段はかなり高かった・・。しかしどうしても欲しくてならず、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した自慢の物。
余談ながらこの店にはコンテッサ1300クーペのカタログも有り、これも欲しかったのだが、これがまた卒倒しそうな程高く、とてもじゃないが手が出せなかった。

そこまでしてベレルのカタログを購入した理由は、ベレルがとても好きだったから。
ベレルのライバルは前述したとおり、クラウン、セドリック、グロリアなどが有ったが、この中ではベレルのデザインがもっとも好き。
クラウンは別格として(実はクラウンも好き)、メッキの固まりの如きグロリアや、厳ついご面相のセドリックに比べ、すっきりとしたベレルのデザインはもっともスマートでかっこよく見える。
もっとも私の場合ベレルにしろ、コンテッサにしろ「幻っぽい」という点に惹かれているという感も有るので、もっともらしく「デザインが良い」などと言いながら、その実は違うのかもしれない。

前期型ベレルのミッションはコラム3速で後に4速へと変更された。(後期は3速フルシンクロ)これらはいずれも1速のみノンシンクロで有ったが、スタンダードのみ3速フルシンクロを注文装備できた、これは営業車を意識しての事で有ろう。

以前タクシーに乗った際、ベレルに乗務していたという運転手さんに会ったことが有る。
それによればやはりベレルの評判は悪かったらしく、乗務員はもちろんお客さんも露骨に避ける人が居たとのこと。
なけなしの金をはたいて、ベレルのカタログなどを買っている私には、生の声が聞けて嬉しかった反面、「やっぱりそうだったんだ」とがっかりもした。

ベレルに載ったディーゼルは、エルフ・エルフィンといった商用車のものがベースであり、まだまだ小型ディーゼルエンジンの技術が未熟な時で有るから、問題も多く時期尚早だったのであろう。
いすゞはこの後もベレットにディーゼルエンジンを与えたが、ディーゼルエンジンを積んだ乗用車が評価されるのは、さらに時を経たオイルショック後のフローリアンの世代まで待たねばならない。

ベレルは少数ながら輸出が行われている、最大の仕向先は東南アジア地域で、香港ではまとまった数のベレルディーゼルが、タクシーとして使われたという。


ともあれベレルが不振のまま終わったことは、当時のいすゞ乗用車部門にとって大打撃で有った事は確かで、いすゞは順調に業績をのばす他社や、東洋工業の様な新興勢力の後塵を拝する事となる。
大衆車クラスのベレットが成功した事も路線を転換するきっかけとなり、以後いすゞがこのクラスのクルマを手がけることは無かった。

前期のベレルは特徴的な3角形のテールランプを採用していた、最上級仕様のスペシャルデラックスは2000ccツインキャブエンジンを搭載、95馬力という強出力を誇った。

また装備も高級車にふさわしく、クーラーやパワーシートがオプションとして用意され、防眩ルームミラー、パワーアンテナなどは標準装備となっていた。

昭和40年10月のマイナーチェンジ以降のモデル、シンプルなフロントマスクは押し出しの強い4灯式に変更。逆に個性の強かった3角形のテールランプは、比較的一般的な角形のものへと変更されてしまった。

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